子どものインフルエンザで気をつけたい合併症|心筋炎とインフルエンザ脳症

〒270-0163 千葉県流山市南流山1-8-8 南流山共栄ビル2階
04-7193-8692
WEB予約 LINE予約 Instagram
ヘッダー画像

インフルエンザで気をつけたい重い合併症            ― 心筋炎とインフルエンザ脳症 ―

子どものインフルエンザで気をつけたい合併症|心筋炎とインフルエンザ脳症

先日、8歳のお子さんが、インフルエンザに伴う心筋炎のため亡くなったことが報じられました。

インフルエンザの多くは数日で回復しますが、まれに心筋炎やインフルエンザ脳症など、命にかかわる合併症を起こすことがあります。今回のニュースをきっかけに、不安に感じているご家族もいらっしゃると思います。

どちらも非常にまれな合併症です。
インフルエンザ脳症は、日本では子ども100万人あたり年間約3人と報告されています。これは、子どもが交通事故で亡くなる年間の頻度と同程度です。決して頻繁に起こる病気ではありませんが、「まず起こらないから知らなくてよい」というほど遠い出来事でもありません。
一方、インフルエンザ心筋炎はさらに頻度を正確に把握することが難しく、「何人に1人」と示せる確かな数字はありません。

まれだからこそ、すべてのインフルエンザで心配する必要はありません。必要以上に怖がるのではなく、どのような症状に注意すればよいのか、そして重症化を防ぐためにできることを知っておきましょう。

インフルエンザ心筋炎とは?

心筋炎は、心臓の筋肉に炎症が起こる病気です。

インフルエンザでもまれに心筋炎を起こし、心臓のポンプ機能が低下したり、不整脈を起こしたりすることがあります。

特に重症な「劇症型心筋炎」では、短時間のうちに心臓の働きが低下し、重い不整脈や心原性ショックを起こして、命にかかわることがあります。

心筋炎は「胸が痛い」とは限りません

心筋炎というと、

  • 胸が痛い

  • 動悸がする

  • 息苦しい

といった症状を想像するかもしれません。

しかし、子どもの心筋炎では症状がはっきりしないことがあります。

特に小さなお子さんは、「胸が苦しい」「動悸がする」と自分でうまく伝えることができません。

**ぐったりする、顔色が悪い、呼吸が速い・苦しそう、腹痛、吐き気・嘔吐、咳、喘鳴(ゼーゼー)**など、一見すると胃腸炎や呼吸器感染症のような症状で始まることもあります。

そのため、発症早期には症状や診察だけで心筋炎と判断することが難しい場合があります。

心筋炎が疑われる場合には、心電図、血液検査(心筋トロポニンなど)、心エコーなどを組み合わせて評価し、必要に応じて専門医療機関で詳しい検査を行います。

「時間とともに悪くなる」ことに注意

心筋炎で特に注意したいのは、急速に状態が悪化することがあるという点です。

最初は風邪や胃腸炎のように見えていても、その後、心臓の働きが急激に低下することがあります。

そのため、一度医療機関を受診していても、

ぐったりが強くなってきた、顔色が悪い、呼吸が苦しそう、胸を痛がる、脈が極端に速い、繰り返し吐く、失神する

など、「時間とともに状態が悪くなっている」ときには再度の受診が必要です。

劇症型心筋炎は、現在でも命にかかわる重い病気です。

一方で、重症の場合にもECMO(体外式膜型人工肺)などの高度な循環補助を行うことで救命でき、心臓の機能が回復するお子さんもいます。

もう一つ注意したい「インフルエンザ脳症」

子どものインフルエンザでもう一つ知っておきたい重い合併症が、インフルエンザ脳症です。

特に注意したいのは、

  • 呼びかけへの反応がおかしい

  • 意味のわからないことを言う

  • 人を正しく認識できない

  • 意識がもうろうとしている

  • けいれんする

といった症状です。

ただし、ここで難しいのが**「熱せん妄」**との違いです。

「変なことを言う」=脳症とは限りません

インフルエンザで高熱が出ると、

「そこに誰かいる」と言う
見えないものを怖がる
意味のわからないことを話す
突然泣いたり興奮したりする

など、一時的な異常言動がみられることがあります。

これは、発熱に伴う熱せん妄でも起こります。

一方、インフルエンザ脳症の初期にもよく似た異常言動がみられるため、発症早期に症状だけで完全に区別することは困難です。

比較的短時間で普段の状態に戻り、その後は会話や反応がいつも通りであれば、一過性の熱せん妄などの場合もあります。

しかし、

異常な言動が続く、呼びかけへの反応が悪い、時間とともに意識状態が悪くなる、けいれんを伴う

といった場合には、脳症を考えて速やかな受診が必要です。

「異常な言動・行動が連続または断続的におおむね1時間以上続く」ことは専門医療機関での評価を考える一つの目安とされていますが、1時間待ってから受診するという意味ではありません。

明らかな意識障害やけいれん、状態の悪化があれば、その時点で受診してください。

異常行動による事故にも注意してください

インフルエンザでは脳症ではなくても、突然走り出す、外へ出ようとするなどの異常行動がみられることがあります。

これは抗インフルエンザ薬を飲んでいない場合にも起こります。

厚生労働省は、抗インフルエンザ薬の使用の有無や種類にかかわらず、少なくとも発熱から2日間は転落などの事故に注意するよう呼びかけています。

窓や玄関を確実に施錠するなど、ご家庭でも安全に注意しましょう。

熱の高さだけで重症度は決まりません

40℃近い熱があっても、水分がとれ、しっかり反応できているお子さんもいます。

反対に、熱がそれほど高くなくても、重い合併症によって状態が悪くなることがあります。

大切なのは体温の数字だけではなく、

顔色・呼吸・意識・元気の程度、そして「時間とともに悪くなっていないか」

を見ることです。

「インフルエンザと診断されたから、あとは家で様子を見れば大丈夫」と決めつけず、いつもの発熱と何か違う、明らかに元気がない、状態が悪くなっていると感じたときには、もう一度医療機関に相談してください。

重い合併症を防ぐために ― ワクチンは大切です

インフルエンザワクチンは、インフルエンザの発症を減らすだけでなく、インフルエンザによる入院などの重症化を減らす効果が報告されています。

心筋炎やインフルエンザ脳症は、インフルエンザ感染に伴って起こる重い合併症です。

ワクチンが心筋炎や脳症を必ず防ぐわけではありませんが、インフルエンザにかかる可能性や重症化する可能性を減らすことは、こうした重い合併症を起こす機会を減らすことにもつながります。

ワクチンを接種していても、インフルエンザにかかることはあります。また、重い合併症を完全に防ぐことはできません。

それでも、インフルエンザワクチンは、子どもたちをインフルエンザの重症化から守るための重要な予防手段です。

インフルエンザの多くは自然に回復します。

まれな合併症を必要以上に怖がる必要はありません。

その一方で、「いつもと違うサイン」を知っておくこと、そしてワクチンで予防できるリスクを減らしておくことは、子どもたちを重症化から守るために大切です。

参考文献

  1. 厚生労働省.インフルエンザ脳症が疑われる症例の初期対応

  2. 厚生労働省.急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A

  3. 日本小児科学会.2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針

  4. Cho HJ, et al. Left ventricular unloading and survival outcomes in pediatric acute fulminant myocarditis patients receiving extracorporeal membrane oxygenation: A systematic review and meta-analysis. Perfusion. 2025.

  5. Mortality in children with fulminant myocarditis: a six-year multicenter retrospective study. 2026.

 

医療監修 

みずたまこどもクリニック 院長
田中瑞恵(小児科専門医)

TOP